リガレアス行政書士事務所の広瀬(@tatsu_ligareus)です。

さまざまな分野で人手不足といわれていますが、農業でも高齢化や労働者不足が問題になっています。その解決策の一つとして、外国人労働者の受け入れが挙げられます。外国人を雇用するためには在留資格が必要ですが、農業ではどういった在留資格が必要かご存知ない方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、農業で外国人を雇用する際の在留資格について解説します。

この記事をお読みいただければ、どのような在留資格で外国人を雇用できるか、雇用の際の注意点がお分かりいただけます。これから外国人の雇用を検討される方や、これまで外国人を雇用していても常に手続きに不安を抱えている方などに向けた記事です。

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農業で働く外国人が増える背景

農林水産省が発表した「農業労働力に関する統計」によると、2015年時点で175.7万人だった基幹的農業従事者は、2022年で122.6万人になり毎年減少を続けています。

基幹的農業事業者数

2015年2016年2017年2018年2019年2020年2021年2022年
基幹的
農業従事者
175.7万人158.6万人150.7万人145.1万人140.4万人136.3万人130.2万人122.6万人

2023年9月1日現在
(参考:農林水産省「農業労働力に関する統計」

一方、厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」の届出状況表一覧によると、2015年10月末時点で農業に従事する外国人数は19,776人(林業従事者含む)ですが、2022年10月末時点では43,748人(林業従事者含む)と2倍以上に増加しています。なお、2022年10月末の43,748人のうち林業に従事する人は186人のみなので、ほとんどが農業従事者といえるでしょう。
(参考:「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(2015年10月末時点)「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(2022年10月末時点)

このように、基幹的農業事業者数が減る一方で、農業における外国人労働者数は増えており、外国人の割合が年々増えています。農業では人手不足を解決する方法として、外国人労働者の受け入れが進んでいることが分かります。

 

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外国人が農業で働くための在留資格の種類

外国人が農業で働くための在留資格は複数あります。

ひとつひとつみていきましょう。

なお、「特定活動」で受け入れる国家戦略特区による農業支援外国人受入事業がありますが、「特定技能」への移行が決まり、制度が廃止されることになるため、ここでは説明を割愛します。

特定技能

「特定技能」は、人手不足解消のために創設された在留資格です。人材確保が困難な産業上の分野(特定産業分野)として12分野が定められ、その12分野に農業が入っています。従事可能な業務は、耕種農業全般及び畜産農業全般です。

「特定技能」には1号と2号があり、1号は外国人が技能試験や日本語試験への合格が必要ですが、2号では日本語試験は不要で、1号より高い技能水準での技能試験の合格が必要です。

いずれも一定程度の日本語能力や技能をもっていることが前提ですので、即戦力として期待できるでしょう。

ただし、1号は最長5年間しか働くことができませんので、それ以降は別の在留資格へ変更する必要があります。2号へ移行した場合は更新回数の上限はありません。

これまで農業は2号に移行することができませんでしたが、2023年6月9日の閣議決定で、農業も2号の職種に追加されました。これにより、2号に移行すれば更新回数の上限がなくなり、「特定技能」として働き続けることができるようになります。さらに要件を満たせば「特定技能2号」から永住申請をすることもできますので、長期的に人材を確保することができる在留資格です。

「特定技能」の概要についてはこちらの記事で解説しています。

技能実習

「技能実習」は、母国では修得できない技能を日本で身につけ、その技能を自国へ移転し、母国の発展に活かすための在留資格です。2号を良好に修了した場合は「特定技能」に移行することもできますが、原則として技能実習を修了した後は母国へ帰国しなければなりません。

「技能実習」には1号から3号まであり、1号で1年間、2号で2年間、3号で2年間のトータル5年間在留することができます。農業で3号まで移行することができる職種は、耕種農業のうち「施設園芸」、「畑作・野菜」、「果樹」、畜産農業のうち「養豚」、「養鶏」、「酪農」です。3号まで移行を検討する場合はいずれかの職種で受け入れる必要があります。なお、耕種農業と畜産農業の両方に従事することはできませんので注意しましょう。

また「技能実習」には、企業単独型と団体監理型の二つの受け入れ方法がありますが、農業の場合は団体監理型になるでしょう。団体監理型とは、海外にある送り出し機関から日本の事業協同組合や商工会などの非営利の監理団体が実習生を受け入れ、その監理団体に加入している傘下の企業で技能実習する方法です。

監理団体には、特定監理事業と一般監理事業があり、一般監理事業でなければ3号まで受け入れることができません。そのため、3号までの受け入れを検討する場合は一般監理事業の監理団体と契約する必要があります。

「技能実習」の概要についてはこちらの記事で解説しています。

身分系の在留資格

身分系の在留資格とは、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」の4つの在留資格をいいます。

これらの在留資格は、就労の制限がなく、日本人と同じように働くことが可能です。労働法令に違反しない範囲であれば、職種や労働時間に制限はありません。

身分系の在留資格をもつ外国人であれば、日本への定着性が比較的高いですし、長期的に働くことができる人材として雇用することができます。

ただし、「永住者」以外の在留資格では、身分事項の変更があった場合に在留資格に該当しなくなることがあります。例えば、日本人と結婚して「日本人の配偶者等」の在留資格をもっている人が、日本人と離婚してしまうと「日本人の配偶者等」に該当しなくなり、別の在留資格に変更しなければなりません。身分系の在留資格をもつ人を雇用する場合は、この点に注意しましょう。

資格外活動許可

資格外活動許可は在留資格ではなく、もともと就労することができない在留資格である「留学」や「家族滞在」などをもつ外国人が、アルバイトをする際に取得する「許可」です。

資格外活動許可をもっていれば週28時間以内で働くことができます。法令違反や風営法に該当するものでなければ職種に制限はありませんので、農業で働くことも可能です。

資格外活動許可は、パスポートと在留カードの裏面に記載がありますので、雇用する際はそのどちらかで資格外活動許可をもっていることを確認しましょう。

資格外活動許可について詳しく知りたい方はこちらもお読みください。

農業法人(農家)が注意すべき外国人雇用のポイント

ここでは、外国人を雇用する際に注意しなければならないポイントを解説します。

報酬額

日本人と同様に外国人に対しても最低賃金法や同一労働同一賃金の対象となりますので、外国人だからという理由で不当に低い賃金で働かせることはできません。

「特定技能」や「技能実習」では、日本人と同等額以上と規定されていますので、同じような職務内容に従事する日本人と同じかそれ以上の報酬を支払わなければならない点に注意しましょう。

また労働法令も適用されますので、報酬以外の待遇面においても日本人と同様に設定する必要があります。特に「技能実習」では、外国人に対する給与未払いや暴力、パスポートの取上げなどの法律違反や人権侵害などがニュースになることも多いです。外国人を雇用する際には、より法律の理解を深め、経営陣を含め従業員の教育を徹底する必要があるでしょう。

不法就労

不法就労となるのは、以下の3つの場合です。

  • 不法滞在者や被退去強制者が就労する場合
  • 入管から働く許可を受けずに就労する場合
  • 与えられた在留資格の範囲を超えて就労する場合

在留期限が切れているオーバーステイの人が働いたり、「留学」などの在留資格をもつ人が資格外活動許可を受けずに就労したり、語学教師として「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもつ人が農業で働いたりするような場合は、不法就労に当たります。

不法就労した外国人には当然罰則が科されますが、不法就労させた事業者に対しても、不法就労助長罪として3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。

不法就労助長罪についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

前述のように、農業で働くことができる在留資格は限られています。日本にいる外国人を雇用する場合は、必ず在留カードを確認し、在留資格や在留期限、資格外活動許可などをチェックしましょう。場合によっては就労を開始する前に在留資格の変更などが必要になります。

「技能実習」は原則転職ができない在留資格ですので、日本にいる「技能実習」をもっている外国人をそのまま雇うことはできません。

「特定技能」は転職が認められますが、「指定書」で指定されている企業でしか働くことができませんので、転職の際は在留資格変更許可申請が必要です。

在留資格においては入管法が関わるため、専門的な知識がないと雇用の判断が難しいことがあります。判断に困る場合には行政書士などの専門家に相談しましょう。

さいごに

ここまで農業で外国人を雇用する際のビザについて解説してきました。

農業で働くための在留資格や外国人雇用の際の注意点についてお分かりいただけたと思います。

本記事で農業に従事することができる在留資格をいくつか紹介しましたが、実際は農業に従事する外国人のほとんどが「特定技能」か「技能実習」のどちらかをもって働いています。前述のように「特定技能」は2号に移行することができるようになったため、今後は長期的に働くことができる在留資格として期待されるものになるでしょう。

また長期的に働くことができる人材を確保するという点では、身分系の在留資格をもつ外国人も雇用を検討できる人たちだと思います。「特定技能」や「技能実習」では職務内容に制限があり、受入機関が満たさなければいけない要件も非常に多いです。しかし、身分系の在留資格であれば、職務内容に制限はありませんし、受入機関に必要な要件もありません。労働条件や環境の改善、働き方を改革して、農業で働く魅力を理解してもらえるようになれば、そのような人たちの雇用も増えるのではないでしょうか。

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