在留資格「企業内転勤」とは?詳細要件を専門家が解説
- 2022.04.08
- 2023.11.04
リガレアス行政書士事務所の広瀬です。
日本に進出する海外企業など、海外のグループ会社から外国人を招聘して、事業を推進させていく企業は多いです。リガレアスにも海外のグループ会社から外国人を日本に出向させたいといったご相談もいただきます。
グループ会社内での招聘ですので、日本側の担当者の方も慎重に対応されている印象です。その中で最も失敗できないのがビザ手続きですが、海外から招聘する際にどんなビザで呼び寄せるか悩まれたことはないでしょうか。
そこで今回は海外のグループ会社から外国人を招聘する際の在留資格である「企業内転勤」について解説します。
実は「企業内転勤」は非常にわかりにくい在留資格の一つです。これまで海外から社員を招聘していた企業の方でも知らないことがあるかもしれません。そういった方にも是非本記事をお読みいただき、「企業内転勤」の在留資格について深く理解していただきたいと思います。
さらに「企業内転勤」と比較をされることが多い「技術・人文知識・国際業務」との違いも解説していますので、その違いについてもご理解いただける記事になっています。
外国人のビザ管理や申請手続きでお困りですか?
→日本ビザ特化のリガレアス行政書士事務所の資料をみてみる
目次
企業内転勤とは?
「企業内転勤」とは、就労ビザの一つで、人事異動により海外グループ会社から日本企業に転勤してくる外国人社員を受け入れるための在留資格です。
「企業内転勤」で行うことができる業務内容は「技術・人文知識・国際業務」と同じですが、同一企業内の転勤者として日本で勤務するという点が「技術・人文知識・国際業務」と異なります。
前述したようにとても分かりにくいので、ここから詳しくみていきたいと思います。
・ビザ申請業務での「分からない」をリガレアス行政書士事務所が解決
・外国人のビザ管理や申請業務にかかる時間を大幅に削減
・ビザ許可率98.7%
企業内転勤の要件
「企業内転勤」の要件は、大きく次の4つになります。ここではそれぞれの要件を詳しく解説していきます。
- 同一企業内の転勤
- 「技術・人文知識・国際業務」の業務内容
- 1年以上の勤務経験
- 日本人と同等額以上の報酬
同一企業内の転勤
企業内転勤で認められるのは、同一企業内での異動の他に、親会社、子会社、関連会社の間での異動も認められます。ここで言う「親会社」、「子会社」、「関連会社」とは、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則8条で規定されている用語です。
煩雑になりますので詳しい説明は割愛しますが、資本関係のある企業間での異動が認められることになります。外国側の派遣元企業と日本側の受け入れ企業が業務提携関係では、この要件に該当しませんので、企業内転勤の在留資格で招聘することはできません。
ここからは、企業内転勤で認められる異動を具体例で見ていきます。
1.本店(本社)と支店(支社、営業所)間の異動
本社から支社への異動、または支社から本社への異動が、企業内転勤の対象となります。
2.親会社と子会社(孫会社)間の異動
親会社から子会社、またはその子会社(孫会社)への異動も、企業内転勤の範囲です。子会社、孫会社から親会社への異動も可能です。
3.子会社間等の異動
子会社間や孫会社間、子会社と孫会社間の異動も企業内転勤に該当しますが、曾孫会社間の異動は企業内転勤の対象とはなりません。
ただし、親会社が各孫、曾孫会社まで一貫して100%出資している場合には、曾孫会社も子会社とみなされ、曾孫会社間の異動、孫会社と曾孫会社間の異動も企業内転勤に該当します。
4.関連会社への異動
親会社とその関連会社間の異動や子会社とその関連会社間の異動は、企業内転勤の対象となります。しかし、関連会社間の異動や親会社と子会社の関連会社間の異動は、企業内転勤に該当しません。
なお、海外の派遣元企業による命令で、日本国内の同一企業内での別事業所へ異動することは認められます。例えば、海外の派遣元企業による命令により、東京の事業所で勤務するために海外から転勤してきた企業内転勤を持つ外国人が、大阪の事業所に異動することは企業内転勤に該当しますので、問題ありません。
以前、企業内転勤を持つ外国人が、日本入国後に同一企業内で事業所を(東京事業所から大阪事業所へ)異動することが一切認められていない時期がありました。このことで企業内転勤に該当する場合であっても「技術・人文知識・国際業務」で招聘するケースがありましたが、前述のように、海外の派遣元企業による命令があれば、企業内転勤でも日本国内の事業所間の異動が認められています。
新しい取り扱いに変わっていることをご存じない方もいらっしゃるようですので、ご注意ください。
「技術・人文知識・国際業務」の業務内容
「企業内転勤」によって日本で行える業務内容は、「技術・人文知識・国際業務」と同じです。「技術・人文知識・国際業務」で認められる業務内容は、自然科学や人文科学の分野、外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務となります。具体的には、エンジニアやプログラマー、営業や会計業務、通訳・翻訳業務などです。
日本で行う業務が「技術・人文知識・国際業務」の業務内容であれば良いので、必ずしも海外で行っている業務と日本への転勤後に行う業務内容が同一または関連する業務である必要はありません。しかし、いわゆる単純作業と呼ばれる業務に従事することはできませんので注意しましょう。
1年以上の勤務経験
日本に転勤する直前に、1年以上海外の本社、子会社、関連会社などで勤務していることが要件です。つまり、海外で採用したばかりの社員をすぐに日本へ転勤させることはできません。
海外で採用したばかりの社員をすぐに日本へ転勤させたいというご相談は多いですが、「企業内転勤」で招聘することはできないため、「技術・人文知識・国際業務」など別の在留資格を検討する必要があります。
必ずしも転勤元会社に1年以上在籍している必要はなく、子会社や関連会社などでの勤務実績を合算して1年以上あれば、この要件を満たします。
また、日本に「企業内転勤」で在留していた期間も含まれますので、直近1年以内に日本にいた方でも「企業内転勤」で在留していた場合には「企業内転勤」に該当します。
日本人と同等額以上の報酬
入管法では、「〇〇円以上」といった明確な報酬の基準はなく、「日本人と同等額以上」という少し曖昧な基準が設けられています。
これは転勤する外国人と同じようなポジションや職種で勤務している日本人と同等かそれ以上の報酬を支給しなければならないことをいいます。
例えば、5年目の外国人エンジニアを招聘する場合には、5年目の日本人エンジニアの報酬額を参考に、同等額以上の報酬を支給しなければなりません。報酬にはボーナスなどは含まれますが、通勤手当や住宅手当といった実費弁償の性格を持つものは含まれません。
また、報酬は必ずしも派遣元企業から全て支給しなければならないわけではなく、日本側から支給することも可能です。派遣元企業と日本側で50%ずつ支給することもでき、その合計額が日本人と同等額以上であれば要件を満たします。
「企業内転勤」と「技術・人文知識・国際業務」の違い
「企業内転勤」と「技術・人文知識・国際業務」の大きな違いは、下記の2点です。
- 学歴・実務要件の有無
- 転職の可否
学歴・実務要件の有無
「技術・人文知識・国際業務」では、大卒以上の学歴または10年以上の実務経験が求められますが、「企業内転勤」は学歴要件がありませんので、大学を卒業していない方や10年以上の経験がない方でも日本へ招聘することは可能です。
最終学歴が高卒の場合であっても「企業内転勤」であれば問題はありません。この点は、「技術・人文知識・国際業務」との大きな違いです。
転職の可否
もう一つの違いは、転職ができないことです。
「企業内転勤」はグループ会社間での転勤をするための在留資格ですので、日本で別の企業に転職すると「企業内転勤」に該当しなくなります。日本で転職した場合には、別の在留資格へ変更しなければなりません。
一方で「技術・人文知識・国際業務」は、報酬額や業務内容の要件を満たしていれば、転職した場合でも「技術・人文知識・国際業務」から変更する必要がありません。
そのため、日本に「企業内転勤」で在留している外国人をヘッドハンティングした際に、その外国人が大卒者でなかった場合などは、「技術・人文知識・国際業務」に変更することができませんので、「企業内転勤」を持つ方をヘッドハンティングする場合は注意が必要です。
学歴要件や転職の可否などの違いがあるものの、日本で行うことができる業務内容が同じであるため、「企業内転勤」と「技術・人文知識・国際業務」のどちらで申請すべきかというご相談は多いです。
海外のグループ会社からの招聘であれば、まずは「企業内転勤」を検討しましょう。海外のグループ企業での在籍期間が1年以上あれば、「企業内転勤」で申請するのが良いです。
一方で、もし在籍期間が1年以上なければ、「技術・人文知識・国際業務」を検討します。学歴要件を満たし、日本の企業と契約を結ぶことができれば、「技術・人文知識・国際業務」で申請ができるでしょう。
もちろん、その他の要件も確認が必要ですし、ケースによっては在留資格の判断が難しいこともありますが、まずはこのようなシンプルな方法で在留資格を検討してください。
なお、日本で代表者や役員などに就任する場合には、「経営・管理」の取得も検討することになります。
「技術・人文知識・国際業務」については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
さいごに
ここまで「技術・人文知識・国際業務」とも比較しながら、「企業内転勤」について解説してきました。「企業内転勤」は、海外のグループ会社に1年以上在籍している外国人社員を招聘する際の在留資格で、学歴要件がなく、日本国内で転職ができないという点で「技術・人文知識・国際業務」と異なります。
本記事をお読みいただき、「企業内転勤」の要件や「技術・人文知識・国際業務」との違い、申請在留資格の選定方法についても、ご理解いただけたと思います。
前述したように、「企業内転勤」と「技術・人文知識・国際業務」の違いやどちらの在留資格で申請すべきかといったご相談は多いです。本記事ではできる限り詳しく解説しましたが、転勤の範囲はわかりにくいですし、ケースが複雑になった場合の在留資格の選定方法は、やはり専門家に相談するのが良い場合もあります。
よくあるご相談として、東南アジアなどにあるグループ会社から招聘する社員が日本で行う業務内容が、「技術・人文知識・国際業務」に該当しないケースです。このような場合には「研修」や「技能実習」といった在留資格を検討する必要も出てきます。
在留資格の選定は、入管法に精通した専門家でなければ判断が難しいこともありますので、少しでも判断に迷うことがあれば、行政書士にご相談することをお薦めします。
リガレアスでは、海外のグループ会社から外国人社員を招聘する際のビザ手続きについて、これまでも多くの実績があります。グループ会社から外国人社員を招聘する際にビザでお困り事がありましたら、お気軽にご相談ください。
記事を書いた人
1981年生まれ、千葉県出身。行政書士として約10年間勤務した後、DX化が進んでいないビザ業務を変えるため2019年にリガレアスを設立。Twitterでも積極的に情報発信しています。
1981年生まれ、千葉県出身。行政書士として約10年間勤務した後、DX化が進んでいないビザ業務を変えるため2019年にリガレアスを設立。Twitterでも積極的に情報発信しています。