二重国籍とは?日本の国籍法と帰化の関係
- 2021.10.18
- 2022.10.25
リガレアス行政書士事務所の広瀬です。
2021年1月に東京地裁が二重国籍を認めない国籍法は合憲であるという判断を行なったことがニュースになり、二重国籍や国籍法について関心を持った方も多いと思います。
国際的な人流が活発に行われる現代では、国籍を2つ持つ方も珍しくありません。日本にも二重国籍の方は多くいると言われています。日本では二重国籍が認められていないにも関わらず、なぜ二重国籍の問題が発生するのでしょうか。
今回は、そんな二重国籍についてみていきたいと思います。
目次
二重国籍とは?
二重国籍とは、個人が同時に二つの国籍を持つことを言います。オランダのマーストリヒト大学では、世界の76%の国が二重国籍を認めているという調査結果を発表しており、二重国籍は海外では珍しいことではありません。
参考:”Maastricht Centre for Citizenship, Migration and Development”
一方で、日本では二重国籍は認められていません。では、どのようにして同時に二つの国籍を持つことができるのでしょうか。二重国籍になりうるのは以下の3つが考えられます。
- 出生により日本国籍と外国籍を取得する場合
- 日本人が出生後に自分の志望によらず外国籍を取得する場合
- 外国人が出生後に自分の志望により日本国籍を取得する場合
出生により日本国籍と外国籍を取得する場合
まず出生による国籍取得には、「生地主義」と「血統主義」の二つがあることを理解しておく必要があります。
【生地主義】
両親の国籍に関わらず、子供が生まれた国の国籍を取得できるという方式のことです。アメリカやカナダ、ブラジルなどで採用されています。
【血統主義】
生まれた国に関わらず、子供が父母の国籍を取得できる方式のことです。血統主義にも、父親の血統を優先し父親の国籍のみを取得する「父系優先血統主義」と、父または母いずれかがその国籍であれば子供もその国籍を取得する「父母両系血統主義」に別れます。
インドネシア、スリランカ、イランなどが「父系優先血統主義」を採用し、日本、韓国、フランスなどが「父母両系血統主義」を採用しています。
生地主義 | 血統主義 | |
父系優先血統主義 | 父母両系血統主義 | |
両親の国籍に関わらず、生まれた国の国籍を取得 | 生まれた国に関わらず、父親の国籍を取得 | 生まれた国に関わらず、父母の国籍を取得 |
アルゼンチン、アイルランド、アメリカ、カナダ、ブラジル、パキスタン、バングラデシュ など | インドネシア、スリランカ、イラク、イラン など | 日本、韓国、中国、タイ、フィリピン、インド、ドイツ、フランス など |
例えば、父母両系血統主義を採る日本人と韓国人の両親の間に子供が生まれると、その子供は日本と韓国の国籍を出生と同時に取得することになります。一方で、生地主義を採るアメリカ国内で、日本人の両親が子供を生むと、その子供はアメリカと日本の二重国籍です。
このように、必ずしも国際結婚している両親から生まれた子供しか二重国籍になるわけではなく、生まれた場所によっては日本人の両親から生まれた子供でも外国籍を取得し、二重国籍になることもあります。
日本人が出生後に自分の志望によらず外国籍を取得する場合
イランなど一部の国では、その国の男性と結婚した女性に対して自動的に国籍を与える国があります。日本人女性がこういった国の男性と結婚をすると、自分の志望によらず外国籍を取得することになり、二重国籍となります。
外国人が出生後に自分の志望により日本国籍を取得する場合
外国人が日本国籍を取得する方法として帰化があります。帰化申請を行い日本の国籍を取得する際、母国の国籍を失うことが帰化条件の一つとなっているため、本来は二重国籍の問題は起こりません。
しかし、国によっては国籍離脱ができない国もあり、その場合は重国籍防止条件が免除されることになっていますので、これによって帰化した外国人は二重国籍になります。
このようにして、二重国籍が認められていない日本においても、本人の意思に関わらず二重国籍になってしまうことがあります。
二重国籍と国籍法
国籍選択の期限
日本では二重国籍が認められていないため、二重国籍になっている場合は、一定期間までに日本国籍か外国籍のいずれかを選択する必要があります。出生の時点で二重国籍の方など、20歳になる前に重国籍になっている場合は22歳まで、20歳以降に重国籍となった場合はその時から2年以内に選択しなければなりません。
重国籍のタイミング | 国籍選択の期限 |
20歳に達する前 | 22歳まで |
20歳に達した後 | 重国籍になった時から2年 |
民法の改正により、2022年4月1日からは18歳に達する前に重国籍になった方は20歳まで、18歳以降に重国籍になった方は重国籍となった時から2年となります。
国籍選択の方法
国籍選択の方法はどちらの国を選択するか、またその選択方法によっても異なります。
【日本国籍を選択】
①外国籍の離脱
各国の法律に従って外国の国籍を離脱し、その離脱を証明する文書とともに「外国国籍喪失届」を市町村役場または外国にある日本大使館・領事館に提出します。
②日本国籍の選択宣言
日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄する旨の「国籍選択届」を市町村役場または外国にある日本大使館・領事館で行います。
ただし、日本国籍の選択宣言を行なっても自動的に国籍を喪失しない国もありますので、その場合にはその国の法律に従って、外国籍離脱の手続きを行わなければなりません。
【外国籍を選択】
①日本国籍の離脱
法務局または外国にある日本大使館・領事館で、戸籍謄本や外国籍を有することを証明する文書とともに「国籍離脱届」をします。
②外国籍を選択
外国の法律に従って外国の国籍を選択し、外国籍を選択したことを証明する文書とともに市町村役場または外国にある日本大使館・領事館で「国籍喪失届」を行います。
国籍法上、期限内に国籍の選択をしない場合、法務大臣から国籍選択の催告を受けることになっており、催告を受けた時から1ヶ月以内に日本国籍を選択しなければ、日本国籍を喪失されると規定されています。
しかし、実際は催告が行われたケースはないようで、二重国籍を放置していることが多いのが実情です。このようにして、二重国籍が認められていない日本でも、二重国籍の方が多くいると思われます。
国籍は非常にセンシティブな問題
前述のように、二重国籍の方はどちらかの国籍を選択しなければならず、選択しない場合は国から催告されることとなっていますが、実際は選択を催告されたことはありません。
当事務所でも日本ビザや帰化申請を取り扱っているため、二重国籍に関するお問い合わせをいただくことがあります。国籍法における原則論はお話ししますが、外国の国籍法も絡みますし、どちらかの国籍を離脱することを勧めることが難しいのが正直なところです。
少し話は変わりますが、ここで当事務所にご相談の多い事例を一つご紹介します。
元々日本国籍しか持っていなかった方が、帰化申請などにより別の国籍を取得したようなケースです。日本の国籍法では、自分の志望によって外国籍を取得した場合には、日本の国籍を自動的に喪失すると規定されているため、このようなケースでは二重国籍という問題にはなりません。
本来は日本の国籍喪失届を行い、日本の戸籍から除籍することが求められます。しかし実際は日本の国籍喪失届を行なっていない方が多いようです。
当事務所にご相談があるのは、そのような方が外国の日本大使館で日本のパスポートを更新しようとした時に、外国籍を取得し日本国籍を失っていることを大使館から指摘され、パスポートの更新ができなかった時です。
今でこそ、別の国に帰化すると日本の国籍を失ってしまうことが認知され始めてきている印象ですが、以前はこのことを知らない方が多かったように思います。日本国籍を失うことを知らずに帰化をしてしまい、日本国籍も持っていると思い込んでいる方が突然大使館から指摘されれば困惑してしまうのは当然でしょう。
ご相談を受けた時も日本国籍を失っていることを伝えることは非常に心苦しく、ご本人も相当なショックを受けます。そのような方が日本に入国するには外国人として外国のパスポートと日本のビザを持って日本に来なければならず、ビザの取得や日本国籍の取得についてご案内しています。
元日本人ですので、他の外国人の方に比べれば容易に日本のビザをすることは可能ですが、やはり外国人として日本に入国しなければならないことに抵抗感を持つ方が多いので、日本国籍の取得を希望されます。
このように、二重国籍が認められない日本において、国籍に関する問題は多く、非常に難しい問題だと感じます。
帰化申請についてはこちらで詳しく解説していますのでご覧ください。
さいごに
ここまで日本における二重国籍の概要や問題についてみてきました。実際には強制力がなく、国籍を選択していない人も多いですが、日本の国籍法では二重国籍が認められず、国籍の選択が必要です。
最後に少し個人的な意見を言わせてもらえば、日本でも早く二重国籍が認められて欲しいと考えています。両親が国際結婚で両親の国籍を取得する場合や生まれた国の国籍を取得する場合、日本ともう一つの国籍はその人のルーツになるでしょう。
また、外国人が住んでいる国で帰化する場合、帰化までの道のりは決して簡単ではないはずです。二重国籍が認められることにより、その人のルーツや多様性、帰化するまでの苦労が認められるようになって欲しいと思います。
リガレアス行政書士事務所では、二重国籍や日本国籍喪失によりお困りの方を支援しています。お困りの方がいらっしゃいましたらご相談ください。
記事を書いた人
1981年生まれ、千葉県出身。行政書士として約10年間勤務した後、DX化が進んでいないビザ業務を変えるため2019年にリガレアスを設立。Twitterでも積極的に情報発信しています。
1981年生まれ、千葉県出身。行政書士として約10年間勤務した後、DX化が進んでいないビザ業務を変えるため2019年にリガレアスを設立。Twitterでも積極的に情報発信しています。