知らなかったでは済まない「在留資格取消」の制度と企業や教育機関の対応
- 2022.10.26
- 2024.10.26
リガレアス行政書士事務所の広瀬(@tatsu_ligareus)です。
外国人を受け入れている企業や教育機関の担当者の方であれば、「在留資格取消」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
しかし、どのような場合に在留資格が取り消されてしまうのか、取り消されてしまったらどうなってしまうのかということについては、詳しくご存じないのではないでしょうか。
そこで今回は、在留資格取消について解説していきます。お読みいただければ、在留資格取消の制度や取り消される原因、取り消された後の流れなどをご理解いただけるはずです。
また、社員や留学生が在留資格取消に該当してしまった際に、企業や教育機関として何ができるかも併せてお伝えします。
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目次
在留資格取消とは?
不正に日本へ入国したり、日本で在留資格に基づく活動を行っていない場合に、在留期限が到来する前に、外国人の在留資格を取り消す制度です。
在留資格が取り消されると、日本を出国しなければならず、場合によってはその後一定期間日本に入国することができなくなります。
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在留資格が取消になる原因・理由
入管法では、在留資格が取り消される事由として第1号から第10号まで定めていますが、以下のように大きく3つに分類することができます。
- 不正な手段で許可を受けた場合
- 在留資格に基づく活動を行っていない場合
- 住居地の届出を行わないまたは虚偽の届出を行った場合
この3つの区分の中で、それぞれ第1号から第10号までどのような取消事由があり、具体的にどのようなケースで在留資格が取り消されるのかをみていきましょう。
また「正当な理由」がある場合には、在留資格が取り消されないことがあります。その「正当な理由」についても説明していきます。
不正な手段で許可を受けた場合
第1号 | 上陸拒否事由に該当しないものと偽り、上陸許可を受けたこと |
具体例 | 過去に退去強制されて上陸拒否期間中の外国人が、退去強制歴を偽るなどで上陸許可を受けた場合など |
第2号 | 第1号のほか、偽りその他の不正の手段により、上陸許可等を受けたこと |
具体例 | 日本で単純労働を行おうとする外国人が、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当すると申告 して上陸許可を受けた場合など |
第3号 | 第1号、第2号以外で、虚偽の書類を提出して上陸許可等を受けたこと |
具体例 | 「技術・人文知識・国際業務」の在留期間更新許可申請で、実際の職務内容と異なる記載がされた書類を提出して許可を受けた場合など |
第4号 | 偽りその他不正の手段により、在留特別許可を受けた場合 |
具体例 | 退去強制手続中に、日本人との婚姻を偽装するため虚偽の書類を提出して在留特別許可を受けた場合など |
第1号から第4号までは、虚偽などの不正な方法で在留資格を取得したような場合に該当するものです。
第1号と第2号に該当した場合は、直ちに退去強制の対象となります。
第3号は、提出した書類が虚偽であったかどうかを外国人本人が知らなかった場合でも適用されるため、例えば受入機関が虚偽の書類を提出して在留資格を取得した場合にも在留資格が取り消されてしまう可能性もあります。
在留資格に基づく活動を行っていない場合
第5号 | 身分系在留資格以外の在留資格をもつ外国人が、在留資格に基づく活動を行わず、かつ、他の活動を行いまたは行おうとして在留していること |
具体例 | 「留学」をもつ外国人が学校を除籍された後、学校に通うことなくアルバイトを行っていた場合など |
第6号 | 身分系在留資格以外の在留資格をもつ外国人が、在留資格に基づく活動を継続して3ヶ月(高度専門職は 6ヶ月)以上行わないで在留していること |
具体例 | 「技術・人文知識・国際業務」をもつ外国人が勤務先を退職し、別の会社で働くことなく3ヶ月以上日本に在留していた場合など |
第7号 | 「日本人の配偶者等」または「永住者の配偶者等」の在留資格をもつ外国人が、その配偶者としての活動を継続して6ヶ月以上行わないで在留していること |
具体例 | 「日本人の配偶者等」をもつ外国人が、日本人配偶者と離婚した後も引き続き、6ヶ月以上日本に在留していた場合など |
*補足:身分系在留資格とは、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」をいいます。
第5号から第7号は、在留資格に基づいた活動を行なっていない場合に該当するものです。ただし、第5号から第7号に該当しても正当な理由がある場合には在留資格が取り消されません。その正当な理由と認められる可能性があるのは、以下のようなケースです。
- 就労の在留資格を持つ外国人が会社を退職後、再就職先を探すための具体的な就職活動を行なっていると認められる場合
- 「留学」を持つ留学生が、専門学校を卒業した後に日本の大学へ入学が決定している場合
- 配偶者からDVから一時的に避難している場合や離婚調停・離婚訴訟中の場合
これはあくまでも一例ですので、該当すれば必ず正当な理由として認められる訳ではありません。
住居地の届出を行わないまたは虚偽の届出を行った場合
第8号 | 上陸許可などで中長期在留者となった外国人が、許可を受けてから90日以内に住居地の届出をしない場合 |
第9号 | 中長期在留者が届け出た住居地から退去した日から90日以内に、新しい住居地の届出をしない場合 |
第10号 | 中長期在留者が虚偽の住居地を届け出た場合 |
特に具体例は不要だと思いますので省略していますが、第8号から第10号は住居地の届出に関するものです。
そもそも、外国人が新規上陸した後に住居地を定めた日から14日以内に住居地を届け出ること、また新住居に転居した場合にも14日以内に住居地を届け出ることが、入管法で定められています。
14日以内に届け出なかった場合は、20万円以下の罰金が課されることになっていますが、ここでは14日を超え、90日以上届け出なかった場合には、在留資格が取り消されるという規定になっています。
ただし、第8号と第9号については、正当な理由があれば在留資格の取消にはなりません。
ここでの正当な理由と認められる可能性があるケースは以下のとおりです。
- 転居後急な出張により再入国出国した場合など再入国許可による出国中である場合
- 頻繁な出張を繰り返して1回あたりの日本滞在期間が短い場合など、在留活動の性質上住居地の設定をしていない場合
- 病気治療のため医療機関に入院しているなど、医療上のやむを得ない事情があり、本人に代わって届出を行うべき人がいない場合
在留資格取消件数
ここまでどのような理由で在留資格が取り消されるのかを説明しました。ここでは、実際にどのくらい在留資格取消のケースがあるのか、在留資格別、取消事由別、国籍・地域別でみていきましょう。
なお、2021年の在留資格取消件数は800件でした。2020年の1210件と比べると33.9%減少していますが、これはコロナ禍における入国制限などの影響で在留外国人自体が少なくなっていたことが理由だと思われます。
在留資格別
在留資格別にみると「技能実習」が585件(73.1%)と最も多く、「留学」が157件(19.6%)、「日本人の配偶者等」が18件(2.3%)と続きます。在留資格取消を受けたほとんどの人は技能実習生だったことがわかります。おそらく技能実習生が失踪し、そのまま日本に在留し続けたり別の会社で働いていたりすることによるものでしょう。
前年の2019年では「留学」の取消件数が524件で、前年の「技能実習」の取消件数とほぼ同数であったことと比べるとかなり減少していますが、これもコロナ禍で新規の留学生が日本に入国できなかったことが大きな要因であると考えられます。以前のように留学生が日本に入国してくるようになると、取消件数も増えることが予想されます。
(参考:令和3年の在留資格取消件数について)
取消事由別
在留資格が取り消された理由別では、第6号が496件(62.0%)、第5号が253件(31.6%)、第2号が36件(4.5%)となっていて、90%以上の取消事由が第5号と第6号です。
第5号と第6号は、在留資格に基づいた活動を行なっていない場合に、在留資格が取り消されるものでした。在留資格別でもみたように、技能実習生が失踪して別の企業で働いているようなケース(第5号に該当)や留学生が学校を退学後もそのまま日本に居続けるようなケース(第6号に該当)が多いと推測されます。
(参考:令和3年の在留資格取消件数について)
国籍・地域別
国籍・地域別にみてみると、ベトナム490件(61.3%)、中国136件(17.0%)、インドネシア32件(4.0%)、ネパール30件(3.8%)、カンボジア30件(3.8%)となっています。
「留学」や「技能実習」の在留資格を持つ国籍の中でも上位であるベトナムや中国が多くを占めるのも、前述の在留資格別や取消事由別でみてきた内容と合致するのではないでしょうか。
(参考:令和3年の在留資格取消件数について)
在留資格が取り消された場合
まず、在留資格が取り消されるまでの流れをみてみましょう。
(画像引用元:出入国在留管理庁ホームページ)
在留資格取消に該当すると疑われる場合、まずは入国審査官や入国警備官による調査が行われ、外国人本人に対して意見聴取通知書が送付されます。意見聴取通知書で指定された日付と場所で意見聴取が行われ、在留資格を取り消さないと判断されれば、引き続き日本に在留することが可能です。
しかし、在留資格を取り消すと判断された場合は、在留資格取消通知書が送付されます。
出国準備期間
在留資格取消通知書では、30日を超えない期間で出国の準備期間が与えられ、外国人はその期間内に日本を出国しなければなりません。また、住居地や行動範囲の指定といった条件も付けられます。もしこの期間内に出国しない場合には、退去強制となります。
なお、この期間中に出国した場合は、退去強制で出国するのとは違い、上陸拒否事由には該当しないので、在留資格認定証明書や査証を取得することができれば、一定期間あけることなく日本に入国することは可能です。ただし申請の際は、以前の在留歴は確認されることになり、申請に影響が全くないとはいえないでしょう。
退去強制
前述のように第1号と第2号に該当した場合は、出国準備期間は与えられず、即時退去強制となります。また、第5号に該当し、出国期間を指定してもその期間中に出国することなく、逃亡すると疑うに足りる相当の理由がある場合も同様です。
退去強制によって日本を出国すると、5年間は日本に入国することができません。それ以前に退去強制や出国命令により日本を出国したことがある場合は、10年間日本に入国することができなくなります。
出国命令
出国準備期間が与えられ、その期間内に出国しない場合には、前述のように退去強制になりますが、以下の条件に該当する場合は、出国命令により日本を出国することになります。
- 出国の意思をもって自ら入管に出頭したこと
- 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 窃盗罪等の一定の罪により懲役または禁錮に処せられたものでないこと
- 過去に日本から退去強制されたことまたは出国命令を受けて出国したことがないこと
- 速やかに日本から出国することが確実と見込まれること
出国命令により日本を出国すると、1年間は日本に入国することができません。
在留資格取消に対する企業や教育機関の対応
前述のように、在留資格取消の疑いがある場合、意見聴取が行われます。利害関係人が参加することも認められています。会社や学校の職員の方であれば、利害関係人に認められる可能性がありますので、意見聴取に一緒に参加するのが良いでしょう。
意見聴取では、意見を述べ、証拠を提出し、資料を閲覧することが可能です。もし正当な理由がある場合には取消事由に該当しないこともあるため、ヒアリングを行い、資料を作成するなど、協力できることはしてあげてください。
もし、在留資格が取消になってしまい出国準備期間が与えられたら、その期間内に出国できるようにサポートしてあげましょう。出国準備期間内に出国できれば上陸拒否事由には該当しないので、在留資格認定証明書や査証が取得できれば、再度日本に入国することもできます。
さいごに
ここまで、在留資格取消について解説してきました。在留資格取消の制度内容や手続きの流れについてお分かりいただけたと思います。
在留資格取消事由は外国人本人に拠るところが多いですが、受入機関として入社や入学時に日本の法律を理解させることは必要でしょう。また、在籍中も在留資格取消に該当しないように管理することも大切です。
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記事を書いた人
1981年生まれ、千葉県出身。行政書士として約10年間勤務した後、DX化が進んでいないビザ業務を変えるため2019年にリガレアスを設立。Twitterでも積極的に情報発信しています。
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